【保存版】仮定法を100%理解するための3つのポイント

「仮定法」とは、事実に反する動作・状態を表す述語動詞Vのことだが、いまいち掴み所がなく、苦手な人が多い文法単元だ。
そこでここでは、仮定法の仕組みを100%理解してもらえるよう、順を追ってお話ししていこう。
仮定法は他の単元と違い、品詞や文型などの文法的ルールがあまり関与しない分、正しい手順で勉強すればすぐにマスターできる。ぜひここで蹴りを付けてほしい。
1. 助動詞の過去形は、過去のことを表さない
まず初めに、「助動詞の過去形」についての大きな誤解を解いておきたい。
「そんなことはいいから、早く仮定法を教えてよ!」
という人もいるかも知れないが、多くの人が仮定法をうまく理解できない理由のうちの一つが、「助動詞の過去形」について間違ったイメージを持ってしまっていることだ。
何事も基礎が大切。慌てずに、ゆっくりとついてきてほしい。
助動詞には、may, will, can, must, ought to, shall などいろいろあり、中には「過去形」と呼ばれる形に変化するものもいくつかある。might(mayの過去形)やwould(willの過去形)、could(canの過去形)は有名なところだと思う。
では、こういった助動詞の「過去形」は、いったい何のために用いるのだろう?
おそらく8割以上の人が、「過去のことを表すために助動詞を過去形にする」という感覚を持っているのではないだろうか?
仮定法を攻略してもらうために、ここでハッキリさせておこう。実は、助動詞の過去形は「過去のこと」を表したりなんかはしない。確かに例外的にそういったケースもあるが、「助動詞の過去形=過去のこと」だと思い込んでいては、いつまで経っても仮定法を理解することが難しい。
言い方を変えれば、助動詞の「過去形」というネーミングがよくないとも言える。「過去形」という響からは、どうしても「時間的な過去」をイメージしてしまうものだ。
例えば、should は shall の過去形だが……
それでは、もう少し具体的に見てみよう。次の例文を見てほしい。
あまり知られていないことだが、助動詞の should は shall の過去形だ。詳しくは後ほどお話しするとして、助動詞 shall にも「~すべき・~するものとする」という義務の意味がある。should は、その shall の過去形なのだ。
ここで、この「You should apologize to me.」という文が、いったい「時間的にいつの話」をしているのかを考えてみてほしい。
・
・
・
どうだろう?
助動詞の「過去形(should)」が使われてはいるものの「過去」の話ではないはずだ。
You should apologize to me.(私にちゃんと謝るべきよ!)は、現在の(危機的?)状態を言っている。
こういった例からもわかるように、盲目的に「助動詞の過去形=時間的に過去のこと」と捉えるのは危険なことだ。
確かに、「過去のこと」を表す「過去形」もあったが……
さて、「助動詞の過去形は、過去のことを表さない!」とは言うものの、あなたの経験からすると、
「いやいや、そうだっけ?過去のことを表すために、助動詞を過去形にしたような……」
といった、モヤモヤする感覚がまだ残っていることだろう。
確かに、そういったものも中にはあった。具体的に示すなら、次のようなものではないだろうか?
父はよくギターを弾いていた。(過去の習慣)
He could swim very well when young.
彼は若い頃、泳ぎが達者だった。(過去の能力)
これらのケースでは、助動詞自身を過去形にすることで「時間的に過去のこと」を表しているが、実はこの「過去の習慣を表すwould」と「過去の能力を表すcould」は、多くの助動詞の中でも例外的なものだと言える。
どういった点で「例外的な助動詞」なのか?
それをお伝えするために、そもそも助動詞とはどういう性質を持つものなのかについて確認していこう。
「助動詞」とは、推量の意味を持つもの
以下には、代表的な助動詞を含む英文を10個挙げている。それぞれにサッと目を通してみよう。
A computer can calculate very rapidly.
コンピュータは非常に速く計算ができる。
2. 可能性
Children can be naughty sometimes.
子供はときにいたずらをすることがある。
3. 否定的推量
The rumor can’t be true.
その噂は本当のはずがない。
4. 許可
You may go now.
もう行ってよろしい。
5. 推量
He may be sick in bed.
彼は風邪で寝込んでいるかも知れない。
6. 強い推量
She must be innocent.
彼女は無罪に違いない。
7. 義務
You must keep silent here.
ここでは静かにしなければならない。
8. 義務
You ought to drive more safely.
もっと安全に運転すべきだ。
9. 習性
He will talk about people behind their backs.
彼はよく人の影でその人の話をする。
10. 推量
That will be John.
あれはジョンだろう。
さて、ここで1つクイズを出そう。
助動詞を含むこれら10の英文の中に、文頭に "I think" を加えることができない英文が2つある。いったい、どの2つだろうか?
答えはこちら。
(×I think) A computer can calculate very rapidly.
コンピュータは非常に速く計算ができる(と思う×)。
2. 可能性
(○I think) Children can be naughty sometimes.
子供はときにいたずらをすることがある(と思う)。
3. 否定的推量
(○I think) The rumor can’t be true.
その噂は本当のはずがない(と思う)。
4. 許可
(○I think) You may go now.
もう行ってよろしい(と思う)。
5. 推量
(○I think) He may be sick in bed.
彼は風邪で寝込んでいるかも知れない(と思う)。
6. 強い推量
(○I think) She must be innocent.
彼女は無罪に違いない(と思う)。
7. 義務
(○I think) You must keep silent here.
ここでは静かにしなければならない(と思う)。
8. 義務
(○I think) You ought to drive more safely.
もっと安全に運転すべきだ(と思う)。
9. 習性
(×I think) He will talk about people behind their backs.
彼はよく人の影でその人の話をする(と思う×)。
10. 推量
(○I think) That will be John.
あれはジョンだろう(と思う)。
"I think" を補うと明らかにおかしいのは、(1)と(9)だ。
"I think" を置くということは、後ろには「私が考えている(推量している)内容」がくるわけだが、(1)と(9)はそれぞれ、「コンピュータに備わっている性質」や「彼の持つ習性」を述べている。
固有に備わった「性質・習性」を「推量する」というのは、おかしな話だ。
逆に言うと、ほとんどの助動詞の前には "I think" を補うことができるわけだから、多くの助動詞は「話し手が推量している動作に添えられる」ということがわかる。
助動詞ごとの細かな意味の違いはあれど、すべての助動詞に共通しているのは「推量」の意味合いなのだ。
仮定法を100%理解するためにも、「推量」の意味こそが、助動詞が助動詞であるための資格なんだと頭に刻んでおこう。
だから「過去の習慣」を表すwouldなどは、例外的な助動詞
「助動詞は、話し手が推量している動作に添えられる」ということを踏まえた上で、これまでに出てきた過去形の助動詞を3つ比べてみたい。
You should apologize to her.
あなたは彼女に謝るべきだ。
B. 過去の習慣
My father would play the guitar.
父はよくギターを弾いていた。
C. 過去の能力
He could swim very well when young.
彼は若い頃、泳ぎが達者だった。
ここで、先ほどと同じように文頭に "I think" を加えることができるかどうかを考えてみると……
(○I think) You should apologize to her.
あなたは彼女に謝るべきだ(と思う)。
B. 過去の習慣
(×I think) My father would play the guitar.
父はよくギターを弾いていた(と思う×)。
C. 過去の能力
(×I think) He could swim very well when young.
彼は若い頃、泳ぎが達者だった(と思う×)。
いかがだろう?
このように、2つ目と3つ目には "I think" を加えることができないはずだ。「習慣」や「能力」というものは、推量する対象ではない。
「推量」の意味こそが助動詞が助動詞であるための資格だとすれば、この「過去の習慣を表すwould」と「過去の能力を表すcould」は、本来の助動詞というカテゴリーからは少し外れたところにあると言える。強引に言ってしまえば、見た目は助動詞だが、助動詞ではないということだ。
だから、助動詞自身を過去形にすることで「時間的に過去のこと」を表すという「例外的な現象」が生じてしまっているだけなのだ。
基本はあくまで、
だ。英語では、助動詞の過去形は「過去のこと」を表現したりはしない。
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2. 仮定法の理解に欠かせない、述語動詞Vの2つの形
should(shallの過去形)に代表されるように、助動詞の過去形は「時間的な過去のこと」を表さない。つまり、(話し手が)いつのことを推量しているかは、助動詞の形(現在形or過去形)に依存するわけではないのだ。
「いつのことを推量(イメージ)しているのか」が何によって決まるのかと言うと、助動詞を含んだ「述語動詞の形」によって決まるわけだが……そもそも「述語動詞」とはいったい何なのか、ご存じだろうか?
簡単に確認しておこう。
多くの人が「動詞」と「述語動詞」を混同してしまっているが、それは、「名詞」と「主語S」を混同しているのと同じ誤りだ。「動詞」や「名詞」がいわゆる "品詞" の一種であるのに対して、「述語動詞V」や「主語S」は "文の要素" の一種だ。
とにかく、「述語動詞」というのは、SVの「V」の正式名称だということ。
そして、ここで重要なことは、助動詞がない場合には「動詞」のみが「述語動詞V」であるが、助動詞がある場合には「助動詞+動詞」を1つの「述語動詞V」とみなすということだ。
これを踏まえて、仮定法の理解に欠かすことのできない、2つの述語動詞Vを見ていこう。
「そのときのこと」を表す「助動詞+do」
まずはこちらの例文を見てもらいたい。
(I think) he may be there. …(1)
彼はそこにいるかも知れない(と思います)。
文頭の「I think」を括弧で括っているのは、省略することができるからだ。
日本語でも同様だが、この「と思います」という部分は、言っても言わなくても大差はない。
さて、 (1)の文は「私が考えている(推量している)内容」を表しているわけだが、ここで考えたいことが2つある。
1つは、「私が考えている(推量している)のはいつか?」ということ。
もう1つは、「私はいつのことを考えている(推量している)のか?」ということだ。
問1.いつ、考え事をしているのか?
問2.いつのことを考えているのか?
1つ目の問いに対する答えは簡単で、「現在」だ。thinkが現在形なのだから、「私(I)」は「今現在」考えていると言える。
2つ目の問いに対する答えも、それ自体は簡単だろう。答えはこれも「現在」だ。「(今現在)彼がそこにいるかも知れない」というように、「現在」のことを考えている文だということは容易に想像できる。
ただここで、英文のどの部分を根拠に、「今現在のことを考えている(推量している)」と判断できるのだろう?
(I think) he may be there. …(1)
彼は(今現在)そこにいるかも知れない(と思います)。
おそらく「助動詞が現在形のmayになっているから今現在のことを推量していると言える」と考える人が多いのではないだろうか。しかし、これはかなり危険な考え方だ。
助動詞だけに注目して、「助動詞が現在形だから現在のこと!」と考えるのであれば、まったく同様に「助動詞が過去形だったら過去のこと!」と考えてしまいかねない。
「助動詞が過去形だからと言って時間的に過去のことを表すわけではない」ということは、先ほど強調した通りである。
だから、助動詞という品詞だけに注目するのは、ここで終わりにした方がいい。述語動詞Vという、もっと大きな形に注目すべきだ。
(I think) he may be there. …(1)
彼は(今現在)そこにいるかも知れない(と思います)。
(1)では、述語動詞Vが「助動詞+do」という形になっているが、これこそが「今現在の状態・動作を推量する形」なのだと理解しておこう。
think が thought になったら?
もう少し話を詰めよう。(1)のthinkが過去形のthoughtになった場合を考えてみよう。
(I think) he may be there. …(1)
↓
I thought he might be there. …(2)
(1)と違い「I thought」は省略できない。「~と思った」というのは言わなければわからないからだ。
また、後ろの助動詞mayが過去形のmightに姿を変えるが、これは「時制の一致」と呼ばれている。「時制の一致」とは、簡単に言うと「見た目の一致」のことで、「主節の述語動詞Vが過去形(thought)なのに、従属節の述語動詞Vが現在形(may be)じゃマズいよ~!主節に合わせて過去形(might be)にしとこう!」という作用のことだ。
時制の一致に関する細かなことはさておき、キミは(2)を正確に訳せるだろうか?
I thought he might be there. …(2)
私は、彼がそこにいたかもしれないと思った。(×)
私は、彼がそこにいるかもしれないと思った。(○)
一見大した差がないように思える2つの和訳だが、やはり明確な違いがそこにはある。
こうやって助動詞を含む文が出てきたときには、先ほどと同じように「いつ考えているのか」と「いつのことを考えているのか」の2点を、しっかりと思考することが重要だ。
「私は、彼がそこにいたかもしれないと思った。」
⇒ 思ったとき(過去)から、さらに前のときのことを推量している
「私は、彼がそこにいるかもしれないと思った。」
⇒ 思ったとき(過去)から、そのときことを推量している
2つの和訳には、こういった違いがある。
(2)の「I thought he might be there.」では、「いつ考えているのか」は「過去」だ。thoughtが過去形になっている。一方で、この「過去」から「いつのことを考えているのか」だが、これは「そのときのこと」を考えている文だと判断したい。
ややこしいかも知れないが、ここを乗り越えられるかどうかが仮定法の征服に大きく影響するので、集中してよく聞いてほしい。
時制の一致で助動詞が過去形のmightになっているからという理由で、現在から見た過去、つまり、過去から見たそのときのことを推量している、と考えるのはよくない。
助動詞だけに注目するのは危険だと、何度も述べてきたはずだ。助動詞が現在形であろうが過去形であろうが、そんなことはどうでもいい。
述語動詞Vの形が「might be」、つまり、「助動詞+do」という形だから、基準となる時(考えている時)から「そのときのこと」を推量している、と判断できるのだ。
(1)の「(I think) he may be there.」と同様に、述語動詞Vの形に注目して、「might be ⇒ 助動詞+do ⇒ そのときのこと」と考えられるようになってほしい。
結局(2)は、「過去からそのときのことを推量している文」なので、和訳としては「私は、彼がそこにいるかもしれないと思った。(○)」が正解というわけだ。
「前のときのこと」を表す「助動詞+have done」
では続いて、次のような文を英語で表す場合には、どうすればよいのだろうか?
彼はそこにいたかも知れない(と思います)。
結局、これをよく、
(I think) he might be there.(×)
としてしまうわけだ。
英文として間違いというわけではないが、「彼はそこにいたかも知れない(と思います)」というような意味を表せてはいない。耳にオクトパス博士かも知れないが、助動詞を過去形にしても「過去のこと」を表したりはしない。
「時間的に過去のこと」を表すのであれは、「助動詞+have done」という形の述語動詞Vを使おう。
(I think) he may have been there. …(3)

これが、「彼はそこにいたかも知れない(と思います)」という意味の文だ。一応注意しておくと、助動詞の後ろは常に動詞の原形。heが主語だからといって、「he may has been there(×)」などとしないように。
さらに、(3)のthinkを、過去形のthoughtに変形したのが、次の(4)の文だ。
I thought he might have been there. …(4)
彼はそこにいたかも知れないと思った。

基準となる時(考えている時)がthoughtの表す「過去」、そこから、前のとき(過去から見た過去)のことを考えている文なので、「彼はそこにいたかも知れないと思った」という和訳になる。
いいかな?(3)と(4)で押さえておいてほしいのは、考えているときよりも前のときの動作・状態を表すのであれば「助動詞+have done」という形の述語動詞Vを用いるということだ。
ここまでのまとめ
ここまでの話をもう一度整理しておくと、以下の2つがその要点である。
■助動詞の過去形は過去のことを表すわけではない
■述語動詞には2つの形(助動詞+do/助動詞+have done)があり、「いつのことを推量(イメージ)しているのか?」によってこれらを使い分ける
この2点を正しく理解できたのなら仮定法の準備は完ぺきのだ。ここからいよいよ、仮定法の正体についてお話ししていこう。
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3. 仮定法過去と仮定法過去完了~事実に反する動作・状態~
(I think) if I were a bird I could fly to you.
もし私が鳥ならば、キミのところに飛んでいけるのになあ(と思う)。
仮定法という単元で代表的な例文なので、キミも一度は見たことがあるのではないだろうか。私がこんな例文を用いるといろいろと気持ちが悪いだろうが、仮定法の例文としてシェアしやすいものなので、そこはお見逃しいただきたい。
仮定法はこのように、現実に反する動作・状態を表すときに用いる表現方法だ。(「私」は実際には鳥ではないし、キミの所に飛んでいくこともありえない。)ここで用いられている仮定法は、もう少し詳細に言うと「仮定法過去」と呼ばれるものだ。
今回、文頭の「I think」はあえて補った。「I think」がある方が、基準となる時(考えている時)が現在だということがわかりやすい。
また「if I were a bird」の部分を条件節と言ったり、単にif節と言ったりする。「I could fly to you」の部分は帰結節と言うのが一般的だろう。起こりうる結果を表す節のことだ。
if I were a bird ⇒ 条件節(if節)
I could fly to you ⇒ 帰結節
これらを踏まえて、具体的な話に入っていこう。
「キミのところへ飛んでいけるのに」は、いつのこと?
まずは帰結節に焦点を絞ろう。
I could fly to you.
キミのところに飛んで行けるのになあ
これはいったい「いつのこと」をイメージして言っているのだろうか?訳された日本語を元に考えてしまうと、非常に曖昧だ。
「キミのところに(この先)飛んで行けるのになあ」というように「未来」のことをイメージしているようにも思えるし、「キミのところに(今すぐにでも)飛んでいけるのになあ」というように「現在」のことをイメージしているようにも思える。
このように日本語を元に考えてしまうと判断に迷うが、ここはやはり、英語のルールに従って考えよう。「いつのことを推量しているのか」は、述語動詞Vの形に依存したはずだ。
I could fly to you.
助動詞が過去形couldになっているところに目を奪われるのではなく、「助動詞+do」という形の述語動詞Vになっていることに注目しよう。これは「そのときのこと」を推量する形だ。
述語動詞Vの形に注目すれば、この「キミのところに飛んでいけるのになあ」という条件節は、今現在のことをイメージして述べている文だと明確になる。
助動詞を過去形にする本当の理由
この帰結節「I could fly to you」には、もう1つ大きな謎が残されている。過去形の助動詞couldだ。「仮定法では助動詞を過去形にしておいてね~!」と何となく説明されることが多いが、それを鵜呑みにするだけでは何の勉強にもならない。(私もかつては鵜呑みにしていたが…苦笑)
どうして助動詞を過去形にするのか、それをハッキリさせるためのサンプルが次の2つだ。
You shall pay your taxes.
あなた方は税金を支払うべきだ。
You should apologize to her.
君は彼女に謝るべきだよ。
助動詞shouldが、実は助動詞shallの過去形であることには軽く触れたと思う。
ここで例として挙げた「義務のshall」というものを目にする機会はほとんどないが、それもそのはず。「義務のshall(~すべき・~しなくてはならない)」は、法令の条文や契約書などといった堅苦しい文章中で用いられる助動詞だ。ソフトやアプリをダウンロードする際の「利用規約」の文面をイメージしてもらうとちょうどいい。誰もが詳細に読むことなく「同意する」をクリックしているアレだ。
ほとんどの人が「利用規約」に十分に目を通すことなく、「同意する」をクリックしていますよね?「義務のshall」をあまり目にする機会がない、というのはそういうこと。
冗談はさておき、共に「義務」を表している2つの例を比較してみよう。
You shall pay your taxes.
あなた方は税金を支払うべきだ。
You should apologize to her.
君は彼女に謝るべきだよ。
どちらも「~すべき」と言ってはいるが、その違いにお気付きだろうか?
前者の場合、「税金を支払う」という行為は、今現在も刻一刻と現実世界で行われている。一方、後者の「彼女に謝る」という行為は、今現在、現実世界で行われている行為ではない。「apologize to her」は現実に反する動作だ。
助動詞の過去形はこういうときに使うのだ。事実に反する動作であったり、実現される可能性が極端に低い場合に、助動詞を過去形にする。
先ほどの帰結節も同様で、「キミのところへ飛んでいく」という行為は実現可能性がまったくない動作だ。だから、「I can fly to you」ではなく「I could fly to you」と助動詞を過去形にするというわけだ。
if節の中で動詞の過去形を用いる理由
続いて、条件節「if I were a bird」にも注目してみよう。
if I were a bird
私が鳥ならば
ここでの問題は、単数形の主語Iに対して「were」が使われていることではない。それは後の話だ。それよりも、「どうして助動詞がないのか?」という問題の方がよっぽど重要だ。仮定法の準備として、助動詞には「推量」の意味が備わっていることを強調したが、ここではそれが効いてくる。
「私が鳥である」というこの事柄は「事実」だろうか?それとも「頭の中で推量していること」だろうか?当然「頭の中で推量していること」だ。
「That is John.(あれはジョンだ)」や「He became a doctor.(彼は医者になった)」からもわかるように、助動詞が使われなければ、それは「事実」を表す。
if I were a bird
私が鳥ならば
「私が鳥である」というのが「事実」ではなく「推量している事柄」である以上、そこには何らかの助動詞がなければならないはずだ。ここでは「推量の助動詞will」がある理由から省略されてしまっているので、それを復活させてみよう。
if I will be a bird(△/第1形態)
willというと、単純未来(~するだろう)や意思未来(~するつもりだ)など、未来を表す助動詞という印象が強いが、次のように「単なる推量」を表す助動詞としても用いられる。
■ That may be John.(あれはジョンかも知れない。)
■ That will be John.(あれはジョンだろう。)
■ That must be John.(あれはジョンに違いない。)
willという助動詞を用いてはいるが、「That will be John.(あれはジョンだろう)」は未来のことを言っているわけではない。mayより強く、mustより弱い。それが「推量のwill」というものだ。
if I will be a bird(△/第1形態)
ただこれだと、私が(実際に)鳥である可能性がそこそこ高いということになってしまう。おわかりだろうか?帰結節(I could fly to him)でも確認したように、事実に反する事柄を表すのであれば、助動詞を過去形にしなければならなかったはずだ。そこで、さらにこうしてみよう。
if I would be a bird(△/第2形態)
こうやって助動詞willを過去形wouldにすることで、事実に反する(私は実際には鳥ではない)ということを表現できているはずだ。
ではなぜ、推量の助動詞wouldは、実際には省略されてしまうのだろう?答えは簡単、推量の助動詞だからだ。
これでは説明になっていないと思うので、もう少し付け加えよう。文頭にif(もし……)という言葉が置かれているのだが、この言葉を聞いた瞬間にあることが予想できないだろうか?
そう、「直後に事実は述べられない」ということにピンとくるはずだ。if(もし……)と言われた直後には、当然、話し手・書き手が「頭の中で空想している内容」が述べられるはずだ。
「わざわざ推量の助動詞wouldを使わなくても、ifの後ろは推量している内容だってわかるから、wouldはいらないよ!」
こういった具合で、if節の中では助動詞wouldが省略されてしまうというのだ。
if I would be a bird(△/第2形態)
↓
if I be a bird(△/第3形態)
ここで勘のいい人はこう言うだろう。
「でも、wouldが省略されちゃったら、事実に反する(私が実際には鳥ではない)ということを表現できないじゃん!」
ご名答、その通りだ。そこで、後ろの残った動詞(be)が素晴らしく気を利かせてくれる。
(be動詞)「推量の助動詞だっていう理由でwouldが省略されちゃうなら、代わりにオレが過去形になって、事実に反するってことを伝えてやるよ!」
if I be a bird(△/第3形態)
↓
if I were a bird(○/最終形態)
こういった流れがあって、if節の中では見かけ上、動詞の過去形が用いられるのである。なお仮定法では、be動詞の過去形は主語が単数であったとしてもwereを用いる。この点だけは、知識として覚えておこう。
さあ、今の流れを改めてまとめておくので、よく確認してもらいたい。
第1形態
if I will be a bird
↓事実に反するので……
第2形態
if I would be a bird
↓「推量」だと明らかだから……
第3形態
if I
↓「事実に反する」を表すために……
最終形態
if I were a bird
仮定法過去とは、「助動詞+do」が骨組みの、事実に反する述語動詞V
ここまでで、仮定法過去の仕組みを相当理解してもらえたと思うが、結局のところ「仮定法過去」とはいったいどの部分のことなのだろう?
(I think) if I were a bird I could fly to him.
この文全体が「仮定法過去」?if節が「仮定法過去」?どちらも違う。実は、wereとcould flyが「仮定法過去」と呼ばれるものなのだ。
(I think) if I were a bird I could fly to him.
仮定法の「法」という漢字からは「方法」という意味がイメージされがちだが、ここでの「法」は述語動詞Vという意味合いで用いられている。
仮定法とは、助動詞を過去形にして「事実に反する」ということを表している述語動詞Vのことなのだ。
そして今回のような、助動詞+doという「そのときのこと」をイメージしているときに用いる述語動詞Vが元になっているものを特に「仮定法過去」と呼ぶのだが、なんともまあ安易に名付けられたものだ。
ご想像通り、if節の中で動詞の過去形が用いられるという表面的な理由で「仮定法過去」と名付けられてはいるが、もはやそのネーミングには何の本質も含まれていない。
ここまでの話について来てくれたキミには、仮定法過去というネーミングに振り回されることなく、本質的に理解してもらいたい。
まとめると、仮定法過去とは、「助動詞+do」を骨組みとした、事実に反する動作・状態を表す述語動詞Vのことなのだ。
仮定法過去完了は、「助動詞+have done」が骨組み
ゴールはもうすぐだ。頑張ってほしい。
ここまでのロジックを駆使して、最後にもう1つの仮定法である「仮定法過去完了」についても見ていこう。次のような文を英語で表す場合、どのように表現すればよいだろう?
もし私が鳥だったとすれば、キミのところに飛んで行けたのになあ
ポイントは、この文、過去のことをイメージして述べられているという点だ。
時間的に「過去のこと」を推量する場合に用いられる述語動詞Vは「助動詞+have done」という形であった。だから土台として、
(I think) if I will have been a bird I can have flown to you.(△/第1形態)
という形を想定し、そこから、いくつか修正していくとよい。
上のような形のままでは「事実に反する」ということを表現できていないので、まずはしっかりと助動詞を過去形にする。
(I think) if I would have been a bird I could have flown to you.(△/第2形態)
続いて、if節(条件節)の中は「推量している事柄」であることが明らかなので、わざわざ推量の助動詞wouldを用いる必要はなかった。
(I think) if I
ただこれだと、「私が鳥だった」という事柄が「事実に反する」ということを表現できなくなってしまった。そこで、後ろに残ったhave beenのhaveが、代わりに過去形になってくれる。
(I think) if I had been a bird I could have flown to you.(○/最終形態)
するとどうだろう?見かけ上、if節の中に「had + done」という過去完了形に見える形の述語動詞Vが浮かび上がるというわけだ。
こうやって、if節の中で「過去完了形に見える形」が用いられるので、ここでも安易に「仮定法過去完了」と名付けられているが、その骨組みは「助動詞+have done」という、前のときのことをイメージしているときに使う述語動詞Vであることがご理解いただけたと思う。
まとめ
いかがだっただろう?今日の話で、仮定法過去・仮定法過去完了について、その本質をしっかりと理解していただけたのではないだろうか?
仮定法過去は、可能性の低いときに用いる「助動詞+do」
仮定法過去完了は、可能性の低いときに用いる「助動詞+have done」
それぞれのネーミングに惑わされることなく、しっかりと使い分けていただきたい。
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